先端で、さすわさされるわそらええわ


【ユーザーによる評価】 平均評価: 4.0/ 総数: 3件
[4点] 誰も真似できない途方もない表現力の豊潤さ!
 川上未映子が、この2年間に文学少女インテリ雑誌「ユリイカ」に発表してきた短編を中心に纏めた作品集。まず、表題を始め、各編のタイトル名にそそられる(笑)。芥川賞受賞作の「乳と卵」でも、その独特でユニークな言い回しが刺激的であったが、その崩芽は今作でも存分に窺う事が出来る。さらさらと書き綴られているかのような文体の中での、まるで連想ゲームの如きめまぐるしく放たれる言葉の連鎖、最初こそ読み難いものの読み続けるうちに次第にクセになっていく既存の文法に捉われない自由奔放でリズミカルなセンテンス、そして、女性特有の感情の機微、身体器についてなまめかしくも繊細かつ切実と語られる表現力の斬新さ。正直、男性読者としては、あまりに濃厚で生理的な感覚に蹂躙され、息苦しくなる箇所もあるのだが、その感受性の途方もない豊かさは、やはり凄い作家だと思う。 (2008-03-16)
[3点] なかなかですなあ!
 関西人の一人として、喜んでいいのか、恥ずかしいと思うのか複雑な気持ちいみたいな。さしてさされてさされてさしてみたいな、センテンスの長いしかし句読点の少ない、と思っていたら急に不必要な箇所に「、」とか「。」が出てきたりして。女野坂昭如といってもいいような、奇態なる文章の使い手というか小中学生並みの文章使いみたいな。
 嫁姑なにおかいわんやこの天満の天神さんに怒られるでみたいな阿鼻叫喚、湯船内放尿の快感は忘れられない幼い日々の心地よさ。もうどうにもしてっていうか、もっとして激しくってみたいな、もう。許されるなら、芥川賞でもなんでも獲りますって言ってるのよ、この今日の私、七転八倒、天網恢恢、後家神社、勇猛果敢、またまた阿鼻叫喚の四字熟語。
 「卵」と書いて「らん」と読ませるのもこの人にとっては快感、芥川賞に繋がるこのふしだら文、嗚呼。「卵」「らん」「乱」「蘭」お隣の欧米か!人は、"egg!"の一言で済ませるこれも快感、あれも快感。さしつさされるあれもささって、これもさされて、ああいい気持ち。

大阪人必読の芥川賞前夜の傑作である。 (2008-02-06)
[5点] 無垢無垢と尖がる少女の先端は世界を破裂させる弾頭
倉橋由美子の短編『腐敗』の現代詩的文体や、R.D.レイン『結ぼれ』の、簡潔で鋭い文の連続で人の複雑な間柄を描く手法を思わせるが、イメージの展開が更に激しく自由。blogに書かれてあった、人が手首を晒しているのが怖かった子供時代、髪への愛着、コンタクトレンズを貰って来るのも困難な私は大丈夫かしら、といった他愛ないような話も、幻想と思索に絡みとられていく。言葉・観念と身体・情念、母性と少女性の切なき対立。四時や四角への執着も不思議。全七篇中、第一篇は書かれた時期も最初期、文体の荒々しさは最強。懐かしい犬の匂いを断ち切る如くシイタケの茎を切り、自ら夕飯を作らねばならぬ孤独な時を刻む、さこん、さこんというリズムは、文筆歌手たる著者の詞も織り交ぜつつ、やがて怒涛へ。第二篇は四角い湯ぶねと対話・出会いの話。明るく優しく暖かい世界に、やはり一片の悲性が、思考が、すっと入り込む。第三篇は身体感覚の細密描写が、読み手にまとわりつき、切り刻む。己が女性性を切り裂く少女性の凶暴な思考と生理。第四編は「推論」という単語を「性交」と、紙一重の、だが絶対的な隔たりを挟みつつピタリ貼り合せる手際に吃驚。第五編、ボルヘス的な宇宙=図書館の抱擁と責めは、草間弥生の鏡の部屋のような目眩と恐怖。第六篇、顔も名も知らぬ、過去の「性交女」の事をなぜ君は何度も訊くか、と「わたし」に困惑する「あなた」。だが、情緒も金も関わらず、個別性を捨象された性交は殆ど、純粋・抽象・普遍な「性交」概念。故に「あなた」との性交に常に既に、とり憑いている。責めたてる「わたし」も、顔無き論理に自家中毒。第七篇、インク(=文字?)と舌(=声?)の一致に躓く少女の成長を、目硝子を貰う事、世界の輪郭を得る事で描いて叙情的。家計簿や人々の声に戸惑いながら、輪郭を得る、得ない、を小さな呼吸のように明滅させる少女の健気さが心に沁みる。 (2008-01-27)
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早稲田文学1

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PLANTED #6 (2008)―植物と暮らすライフスタイル・マガジン (6) (毎日ムック) (毎日ムック)

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乳と卵


【ユーザーによる評価】 平均評価: 4.0/ 総数: 26件
[3点] 疲れる
疲れたけど、あたたかい、という感じ。
それにしても、一文が長すぎやしないですか・・?
そうでなくても関西弁は活字にすると、非常に読みづらいのに、マルがなくて、え、まだ続くの? という感じでで、だらだら続いていると、疲れる。
だけど、あたたかい雰囲気もすごく伝わってきた。 (2008-04-09)
[3点] ふむふむ
まあ朝鮮人が朝鮮人を選出してる賞なので当然の帰結ですな。
今、芥川が甦って読んだらショックでもう一回自殺するだろうな。

まっ、ひさしが「ブンとフン」で一億総泥棒を描写したみたいに
この人には一億総混乱を表現してほしいね。うん。 (2008-04-08)
[3点] 女という肉体
一言で言えば豊胸手術を決意した姉とその娘との関わりを通して、女という肉体を再発見する女性の物語、だろうか。
同じ「女」という「入れ物」に閉じ込められた魂同士であっても、その「入れ物」(やその変化)に対する嫌悪感や愛着や不安や不快を共有し共感し合えるわけではない。巻子にとっての緑子も、緑子にとっての巻子も、夏子にとっての二人も、不可解だ。同時にどこかでお互いのその感覚を、知ってもいる。知ってはいるけどそこに共感はない。
恐る恐る距離を取っていた三人が急速にぎゅっと近づくクライマックスは滑稽でありながら切実で、強烈だ。
話は変わるが、巻子、緑子は『たけくらべ』の大巻、美登利の姉妹から取ったのだろうし、夏子、は確か一葉の本名のはず。華やかな「性の世界」を背景にして「こどもの世界」の終末を繊細に描いた『たけくらべ』を読み合わせると、なお面白く読める。 (2008-04-07)
[3点] 技巧的な印象。
技巧的な印象。
ストーリー云々というより。
○会話の文章の改行なし。時折、「 」もなし。
○ストーリーの文章の関西弁。
 で、丁寧に読まないと、頭に、はいらない。
 読んでいる時に、「別の事を考えて、内容が頭に入っていない現象」
 が、2ページに一回、おそわれた。
○とりあえず、一回読んだ。全く、内容が頭に残らない。
 もう一度、読む時間が必要に思っている。
 これは、作者の意図でもあるでしょうが。
 それもわかるが。  表現の一つでしょ。
 でも、シンドイ。

読みにくさをピックアップされている方が多いですが、
私も、かなり読みにくさを感じました。表現等、いろいろあると思いますが、
私のような、あまり読書をせず活字なれしていないものは、何回も後戻り
しながら読む事にはなるでしょう。 (2008-04-04)
[5点] 似ているようで似ていない、他のどこにもない未映子ワールド
 最初の一行から最後の一行まで、一切の無駄も隙もない文章。ぐいぐいと読まされて、本当に新人?とびっくりです。前回の芥川賞で前作が候補になった時、町田康にそっくりと非難する声があったそうだけど……違うじゃん。単に大阪弁の語りというならむしろ谷崎潤一郎だし、作者本人は逃げも隠れもせず樋口一葉ですと言ってるんだし、多和田葉子が好きという言葉も出てくるから、おいくつですか?と本当にびっくりです。寺山修司とか岸田理生の匂いもするし、椎名林檎っぽい気もするけど、もうそんなんどうでもええわ、他のどこにもない、古そうでいて新しそうでいて、本当に凄い新人。凄いです。
 たとえばもう、15ページから続く飲み屋街の描写ひとつとっても、饒舌というよりは本質のど真ん中を突くストライク。豊胸手術をしたがる母と、初潮を恐れる娘という設定にしても、その母子と語り手の距離感にしても、三日間のできごとがきっちり並べられた作品構造にしても、全てが満点。今日からファンです。 (2008-03-30)
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わたくし率イン歯ー、または世界


【ユーザーによる評価】 平均評価: 4.0/ 総数: 8件
[4点] 私は奥歯、我が子は虚体?ぷふい!
そこに在る人の、他の誰とも交代不可の「たったひとつのそこにある視力」。作中、この「視力」は「痛み」と並んで、無限に私は私、という自同律として語られる。人の顔は毎日露出しているから大事な所が薄れるのかも、という語り手の疑念は、奥歯への執着を説明してくれる。普段は視界から隠されているが、口を開け、鏡に映して自分で見るなり、他人に見せるなり出来る、奥歯。歯は、開いた口から現れるという点で、言葉と似ている。呑み込む器官としての口は、世界と他人を呑み込む自意識に似ている。そして、冒頭での語り手と歯科医の遣り取りは、自意識の奥から言葉を開いて見せる、カウンセリングに似ている。
彼女が歯科の前に化粧品売り場で働いていた話は、女性性という角度から<見る>と存在認定の問題を描いている。だから彼女が「ブス」と呼ばれるのも、他者による存在規定。
『雪国』冒頭の有名な文章には主語が無い、という話は、主語・主体の<見る/見られる>の無限連鎖からの解放を感じさせる。言葉だけに可能な、誰でもない視点。だからこそ、語り手の日記=言葉の中にしか存在しない架空の子は、存在問題を病む語り手の避難所になる。これが、実際に体を伴った存在としての子を生むとなるとまた存在の問題に抵触してくる点については、併録されている『感じる専門家 採用試験』で展開される。
一人称の、わたくし率100%で突っ走った表題作が、なにげに三人称へ、つまり言葉の上で他者の視点に代わる箇所は、その視界の内に占める語り手の居場所があちらかそちらかに在るような無いような語られようになっており、哲学的な目眩に誘われる。

真っ赤な表紙の間の白いページが、まるで歯茎の間の歯のように見える装丁は、紙のツルツル感と光沢も手伝って、本が入れ歯に見え、幻覚的。白いカバーが少し小さめで、赤い表紙をチラ見せしていたり、シンプルながら緻密な演出。 (2008-03-29)
[4点] 著者自身へのレクイエム
わたくし(自分の本質)が奥歯にあると決め込んだ精神錯乱気味の歯科助手の物語で、個々の読者にとって様々な多様性を持って働きかけてくる、とても読み応えのある小説だと思います。

主人公はつきあっている(と想定している)仕事で忙しくて会えない彼への想いを、未来の自分の子供に向けた日記に綴り、歯科では女性医師に苛められますが、既に耐性ができていています。なぜなら少女時代にもっと陰惨ないじめに合っていたから。

そうして、彼の浮気現場で、疾風怒濤の想いを、情緒を含む鋭利な大阪弁でぶちまけ、浮気相手にこれまた鋭利な憎しみを込めた大阪弁で反撃され、、、そして、その足で歯医者に向かい、わたくし=自分の本質=奥歯を、、、して、現実の世界へ舞い降ります。

これは、虚構の「わたくし率イン歯―」の世界から、現実の「わたくし率イン世界」への主人公の成長の物語です。

著者はその日記「そら頭はでかいです。世界はすこんと入ります」で、少女時代に働けど貧しい母親を見て、自分は生まれるべきでなかったと想い悩んで来たと吐露していますが、恐らく本作は、彼女自身が彼女の為に書かざるを得なかった、自分自身へのレクイエムだと思います。
(2008-03-18)
[5点] 不思議な感覚に浸れます
なんとも不思議な読後感だった。一息ついてストーリーを追い直してみる。統合失調症患者の妄想のような一見、支離滅裂な話が続く。自分の奥歯に自我があると「決めた」女が、まだ宿してもいない自分の子どもと中学時代に「自分が知りたい秘密」を教えてくれた男の子へ向けて手紙を書く。その内容は正しく妄想そのもの。しかし、この本のテーマである、わたし、自己意識、自我についての考えは実に深い。哲学の独我論にも通じる。アルバイト先の歯医者でも妄想が続くが、これは自らの影を見ていると思える。そこへ実物のその男が患者としてやってくる。女は男をアパートへ訪ね、怒涛のわたくし論をブっぱなし「奥歯(男の自我)ちょうだい」とたたみかける。それに対峙する男の部屋から出てきた女が、読んでいて笑えるまでに痛快な現実を突きつける。これがクライマックス。後半の展開も興味深い。奥歯を麻酔なしで抜きながら頭に浮かぶのは過去に受けた陰湿ないじめの光景か。最後の3ページには、すべての始まりを予感させるエピソードがこの部分だけは全く普通の文体で書かれている。このリズムはハマる。人物の心を生々しく描写する著者の力はすごい。
もう一つの「感じる専門家 採用試験」での、妊婦の葛藤の描写も妙にリアルで素晴らしい。子どもを生んだことはないだろうに。
「乳と卵」も是非読みたい。


(2008-01-18)
[5点] 想像力を駆り立てて読めました
理解しようと思って読むと、読み進めるのが困難かもしれませんが、細かいことを気にせずに読み流していくと、リズムがあって読みやすく、インディーズ映画のようなポップな映像を思い浮かべることができました。不自然な句読点や無意味そうな表現も、その映像に音響効果や特殊効果をもたらしました。映画にするとかっこよさそうな描写が多くあり、楽しめました。下手に詳しく書かれていない分、想像力を駆り立てて読めました。一方で、自分を見失い、生きる意味を探し求める主人公は、深く描かれており、共感するところも多くありました。帯にあった「ほいでもって泣くで」のコピーは、かなり正しいと思われます。 (2007-08-28)
[3点] この手に何度も乗るほど「暇やないねんて」ってのも一方ではあるけど
 脳でも子宮でもなく奥歯が書いた私(わたくし)小説。もうこの設定自体、許せない人には許せないだろう。俺にしたって、タイトルはちょっとヤバイと思ったけど、ロリっぽい著者近影と意外に30越えの年齢のギャップに「ほしのあき?」的な関心で手に取ったわけで。
 内容はと言えば、もう、わたしわたしわたしの脳天パラダイス状態。大阪弁がまた、言葉から理性を奪い去る。もう、この言葉の羅列には、理性も客観も物語もコミュニケーションも何ひとつなくて、あるのは肥大した「わたし」だけ。日付の前後する日記とかはちょっと吉田戦車風で、そこら辺の稚拙な作為が見え隠れするのが何だけど、まあ、よく引っ張るよなぁ。まあ、勘違いして手に取った人も普通は2〜3ページで放棄するんだろうけど、読み始めたらとりあえず最後まで読む貧乏性で律儀な俺としたら、いつご褒美がもらえるのか、サービスシーンがあるのか、って望み薄でも期待しちゃう訳だ。そんな勝手な罠にはまって読み進めると、そこにあるのはノイジーな、救いのない、気のふれた、不快な、目を覆う、自己完結の、退屈な、鬱陶しい、ノーサービスのわたしわたしわたし、なんだけど。
  「わたしわたしうるさいねん。奥歯とか雪とかさっきから何をゆうとんねん。いっこもなんも意味わかってへんからこっち百パー意味わかってへんから。ってゆうか、あんたおかしいやろ?」「っていうかまず人に話するときの努力をしろよ。おまえよ。間違ってるやろがそもそもが。みんな忙しいねん」っていう、やっとまともに文脈の通じる「わたし」以外の言葉が登場して、この小説の構造自体が相対化されるんだけど、ここの部分はカタルシスっていうか、逆にここまでの「わたし」語りの異物感を際立たせもする。言葉とか私とか意味とか文学とか、考えさせられる。まぁ、この手に何度も乗るほど「暇やないねんて」ってのも一方ではあるけど。 (2007-08-20)
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