風の歌を聴け (講談社文庫)


【ユーザーによる評価】 平均評価: 4.5/ 総数: 63件
[4点] デレク・ハートフィールドに捧ぐ
 実のところ、何も起きないし、何も変わりやしない、でも、時間というやつは
とりあえず過ぎていく。
 物語なんてどこにもない。

 まさにそれこそが、この小説の表現する、的確極まりない時代描写の正体。

 あるとき読み返して、はっとさせられたことがあった。
「もしあなたが芸術や文学を求めているのなら――」というあのくだり。
 なんだ、春樹ってめちゃくちゃ分かってんじゃん、と感嘆せずにはいられなかった次第。 (2008-03-15)
[5点] イエローページを読んでから再読、ぶったまげる
この小説を読んだのは二十歳前でしたが、その時は加藤氏の指摘にあるような事実(と言っても構わないでしょう)に露ほども気付く事無く、「さわやかな青春小説」とだけしか捉える事が出来なかった自分の読解力の無さに滅入るばかりです。「ヨーロッパでは肉体を離れた魂は
鼠の姿をとる」という文を見た瞬間、何かが崩落した感じを受けました。なるほど鼠はキズキ、影、五反田君と連なり、ジェイやDJは羊男へと引き継がれ、病気の少女は直子に重なる
印象が強い。加藤氏の針のような洞察力には脱帽です。そしてこの小説の原題でもあり、作中の鼠の書いた小説のタイトルでもある「ハッピーバースデイ、そして、ホワイトクリスマス」
の文字が表紙の上部に、物語の終わりである八月二十六日(8・2・6)が同じく表紙の港の倉庫の壁面に刻まれているのを発見したとき、震えが止まりませんでした。村上春樹、当時若干29歳。同じ人間とは思えない。原点という意味では、彼のすべてがここに詰まっているんでしょう。目をよく洗ってから読むべし。 (2008-01-29)
[3点] 村上春樹の技術について
 デビュー作ということもあり、文章はまだまだ下手っぴな部分も多いが、この直後にやってくる80年代的
Coolness&Popnessの先駆的意匠というアプローチから読めば、実はかなり前衛的な純文学だったと言える
かもしれない。内容自体はどうでも言いっちゃどうでも良く、読んでいて小っ恥かしくなる──二十歳そこ
らでそんなこと言う奴いるかよ的な──場面も多く、個人的には好きな作品とは言えないまでも、結局、
村上春樹の村上春樹たる最も偉大で稀有な資質とは、テキストを上滑りながら読んでも読者を作品の本質
というか内奥にまで接近させる技術にあるのだと思った。
 他の純文学作家の場合、大前提として読者は、そのテキストと極めて近い距離から半ば文学的格闘を通じ
てその作品を読む必然に駆られる。つまり、適当に上滑りつつ読みなぞっていても作品世界の内奥に没頭す
ることができないのが他の純文学ほとんど全てに通じる最低条件だったりするのだが、村上春樹には、特に
深い入りすることもなく表面を適当になぞっているだけでも作品の深い部分にまで読者を引きずり込む魔力
がある。その魔力自体は必ずしも芸術的価値のある構造的特質というわけではないものの、それでも、興味
のない読者までをも作品のボトムスに引きずり込む作力だけは評価していい。(アンチにまで何かを奮い立
たせる作家はそう多くないだろう。)
 とはいえ、作品の内容をあれこれ議論する程度の世界観でもないだろうというのが率直な感想。つうか、
ほとんど内容とか細部を、もうほとんど忘れてる。謎めいた女の登場人物がややショッキングな打ち明け話
をするという必殺技はカポーティーの『草の竪琴』からの飛び切りのインスパイアだったのか、その後の彼
の作品でも必ず登場するお決まりのプロット(筋運び)である。そう考えると、登場人物にほとんど真相を
語らせることなく作品に衝撃の結末を用意してしまうレイモンド・カーヴァーに、彼が自分とは正反対の
ハードボイルド観を見出して大きな衝撃を受けたであろうことも素直に納得できる。
 ちなみに、「完璧な文章」は必ず存在します。ただ、我々がそれを遂に見る事がないというだけのことで
す。完璧を目指して絶望するのと、完璧の不在を拠り所に最初からに絶望を回避するのとは、全く意味が違
うばかりでなく、いちいちそんな言葉を有り難がっていること自体が一つの大いなる絶望を招くということ
に早く気づいた方が、方向感覚を剥奪された真っ暗闇の海上から微かな岸辺の灯を見つける日もそう遠くは
ないってもんだろう。


(2007-11-02)
[5点] 懐かしい
随分昔に読んだのですが、何回読み返してもいいですね。
映画撮影に使われた三宮のバーは今でも健在。ピンボールもあります。
つい最近、デレクハートフィールドが実は村上さんの創作した人物だと知ってびっくり。
でも、騙されたって気はしなくて、とにかく清々しさの残る本。
若い人に是非読んで欲しい一冊です。 (2007-09-22)
[5点] ハートフィールドが読みたくなる!
本書のストーリーは、村上氏本人の学生時代のエピソードがベースになっていると思われ、
「ノルウェイの森」との共通点がいくつか認められる。
そのためか読み終わった時は、ただ単に「ノルウェイの森」の短縮バージョンという印象しか残らなかった。
しかし、主人公が最も影響を受けたとされるデレク・ハートフィールドという作家についての真相を後で知ってから、本書に対する評価はがらりと変わった。
そのハートフィールドなる作家について、あれこれと薀蓄が語られるだけでなく、最後に村上春樹氏がオハイオ州にあるハートフィールドの墓地を訪ねたという「あとがき」も心憎い。
ちなみにウィキペディアで「デレク・ハートフィールド」を調べると、
大学の図書館などでは、「デレク・ハートフィールドの著作を読みたい」という学生のリクエストが後を絶たないという逸話が紹介されている。
あと、これは蛇足だが、主人公の車に大きく書かれた牛の顔についての記述が、私の笑いのツボにモロにハマり、それを読んでいるとき通勤電車の中だったので大いに困った。 (2007-09-21)
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